グリーンアイズ「どうして？」 まっすぐな視線だった。スネイプは眉を顰め、肉の薄い唇をへの字に曲げた。 「ハリーはジェームズの忘れ形見なんだよ？どうして目の敵にしてるんだい？」 スネイプの全身から立ちこめる拒絶の空気を意にも介さず、鳶色の髪の青年が納得がいかないという声音でもう一度繰り返した。 「答える義務などない。あれは不真面目な生徒だ。教師として不愉快だ。それだけだ」 「それだけ？」 言葉を反芻した唇が、うっすらと笑みを敷いた。隣を歩いていたスネイプの視界に入った。 「彼はジェームズに生き写しだろう？懐かしくないの？」 含みのある言葉だった。スネイプは冷たい目線を同僚に向けた。たいていの者なら、怯えてそそくさと逃げ出す類のものだ。孤独を好む彼の防護壁だった。ひょろりとした痩身の同僚には効かず、彼は相変わらずの人好きのする笑顔を張り付けたままでいた。彼、ルーピンは、スネイプとジェームズとの仲を知っている数少ない人間のひとりだった。 「ここで失礼する」 スネイプは仏頂面を隠しもせず廊下を折れていった。 研究室の椅子に浅く腰掛け、足を投げ出し、髪を掻き上げた。 今の自分は酷い顔をしているのだろうとスネイプは思った。 実際、再会したルーピンが驚くほど、スネイプは面変わりをしていた。学生の頃は美しい少年だった。今は実年齢以上に老け込んでいた。過ぎ去った歳月とそれがもたらした苦渋の結果だった。 （どうしてって？決まってるだろう、ルーピン！奴の子だからさっ） 心の中で悪態をついた。可笑しさに笑えてくる。 （ああそうさ。生き写しだよ。あの収まりの悪い黒髪も、落ち着きのない素行も、トラブル好きする体質も、なにもかもが父親にそっくりだ。ある一点を除いては。あの瞳の色以外は！） ハリーの瞳はグリーンアイズだった。 父ジェームズ・ポッターは紺碧。深い深い海の色。蒼い蒼い空の色。いつか見た空と海とが交わる壮大な自然の色。 （あの色は、リリーのものだ） 母親の、あの女の瞳の色。 あんなに似ているのに、瞳の色が告げるのだ。この子はジェームズではないと。 この子は彼とあの女が交わって産まれた子だと。 床に滴がしたたった。 「十年だぞ、奴が死んで…」 悔しい。こんなことにいつまでもこだわる自分自身が。 滑稽すぎるじゃないか。 彼の人の遺児は、最愛にして怨めしい存在だった。 「しつこすぎるぞ。ジェームズ…」 死してなお、彼の手から逃れられない。今なおからみつく見えない糸。 「いい加減にしてくれ。お前はどこまでわがままで欲張りなんだ…」 言葉にならない呟きは、いつしか嗚咽に食い尽くされていた。 2002/1/29 脱稿三巻で、ポッターをいじめたあと、ルーピン先生に仕返しされた、そんなお話。よくわからんのですが、ジェームズ×スネイプ前提です 戻る |