冬の星座２マグルの子弟を学校に迎えるか否か。生徒の選別について四人の魔法使いは意見の対立を激化させていた。昨夜も言い争いになった。ここのところ毎日だった。 魔法族はその絶対数が少なく、また少ない中での婚姻の繰り返しが血の濃縮を招き、種族としての限界を迎えつつあった。出生率の低下、奇形児の増加。このままでは確実に滅びる。 種の限界を悟った人々は、存続のために異種族との混血の道を選んだ。だがそれは、純粋な意味での魔法族の衰退を意味していた。 その晩も、ゴドリック・グリフィンドールは、只ひとり意見を異にするサラザール・スリザリンを説き伏せるため、彼の部屋を訪れていた。 「何度言ったら判る！」 「何度言われても理解できない！同意などできるものか！貴様の言っていることは、魔法族の能動的な自滅だ！」 「馬鹿を言うな！このままでは、魔法族はじり貧だ。原始的でも生命力の強い種族の血を混ぜなければ、数代のうちに滅びるぞ」 「衰退するのなら、それは自然の摂理だ。異生物と混血して薄まった血など、もはや魔法族ではない。偽りだ。そんなもの、この世界の存続になどならない！まやかしだ！いずれマグルに乗っ取られる」 白皙の頬が憤りに上気した。 「サラザール！」 「危険なのだ。マグルに魔法の力を持たせてはならない。彼らの云うところの、プロメテウスの火だ。違うか？ゴドリック」 問いかけるスリザリンの目は、済んだ色のまま真摯な光をたたえていた。 「我らにとって、魔法は呼吸のようなもの、日常の生活に不可欠な技術だ。これまでに築き上げた論理があり体系がある。だが、奴らにとってはそうではない。魔法は無から有を生み出す奇跡にしか映らない」 「そうならないためにここに招くのだ。正しい理解を促すために。そのための学校だ」 「無駄だ」 スリザリンは一言の元に言い捨てた。 「マグルには、必要ないものだ。彼らには彼らのテクノロジーがある。魔法など必要ない」 「望んでいる者はいる。資質を秘めた者も」 「彼らが魔法に望むのは、奇跡だ。己の世界の技術で叶えられぬ欲望を、こちらの魔法で叶えようとする浅ましい欲望だ。身の程知らずな」 「魔法は万能ではない！」 「そうだ。魔法族にとってそれは常識だ。だが、マグルにとってはどうだ？魔法を求めるマグルにとって、魔法とはなんだ？。彼らの歴史を見よ。新しい技術は全て戦争に用いられた。彼らに教えてはならない。魔法界にまで、集団殺戮の文化を持ち込むな！」 「このまま座して滅びるのを待てというのか！」 「魔力を高めれば寿命を延ばすことは可能だ！」 「引き延ばしたところで、子孫を残せないなら、同じことだ！思い出せサラザール！おまえが学校を作りたいと言い出したのだぞ。だから俺は…。なにが気に入らない」 「なにもかもだ！マグルを取り込むのも。おまえのその恩着せがましいのもっ」 「なんだと！」 後は泥沼だった。純粋に技術の研鑽に明け暮れていたスリザリンは、剣士でもあるゴドリックに腕力で及ばない。組み伏せられて、情欲に押し流される。今では珍しくもなくなった夜の光景だった。 体力では及ばなくとも、魔力で拒むことはできる。本気でそうしないのは、本音のところで拒んではいないからだ。ゴドリックはそうたかをくくっていた。彼はスリザリンを気に入っていた。怜悧な頭脳も、冬の星空のような容姿も、容赦ないもの言いも、オーロラのように彼を魅了して止まなかった。 違うのは、手を伸ばせば触れられることだけだった。 夜明け前の冷え込みに、ゴドリックはぼんやりと目を覚ました。傍らにあるはずの温もりがない。見下ろす視線を感じてはっきりと目を覚ました。 スリザリンが蹲って彼を見下ろしていた。長い髪が顔に垂れていて、闇に慣れた目にも表情は見えない。 「どうした？眠れないのか？」 返事はない。代わりに喉元に杖が突きつけられた。 「今、選べ」 「サラザール？」 「魔法族のみとするか、穢れた血をも取り込むのか」 「…混血は必要だ」 「ではこれまでだ。私は去る」 衣擦れの音がして、彼が立ち上がろうとしているのだと知れた。 そのあとのことを、ゴドリックは正確には思い出せない。逆上したのだと思う。正気に戻ったとき、スリザリンは彼に押さえつけられたままぐったりとしていた。 眠っているのでも気を失っているのでもなかった。彼は五感全てを遮断していた。 なにに絶望したというのか、自殺に等しい行いだった。 ＜続く＞ 2002/08/04 脱稿スリザリンを精神的自殺に追い込んだ、無神経男。ある意味最強ですな、グリフィンドールは。 |