ユートピア序「…マクゴナガル教授…」 今にも途切れそうな呼吸の底から、彼女は枕元にいるであろう、恩師の名を呼んだ。 「ここにおりますよ」 暖かい感触が、枯れた手を握る。 「醜い姿を、あの子に見せないでくれてありがとう。お気持ちに感謝を…。でも、この姿を隠さないで。あの子に見せてください。あの人がどんな人か忘れないように。決して許したりできないように。お願い…します…」 干からびた喉では、言葉を操ることも難しい。願いが言葉になったのか心許なかった。 握られた手の甲を熱い滴が濡らした。恩師が泣いている。伝わったのだ。肩の荷がまたひとつ軽くなった。 今の自分の姿を見たことはない。だが、あの魔法で落命した者の亡骸を幾つも見てきた。朽ちた流木のような、それがかつて人間であったことなど想像できないような、醜い残骸。 今日まで命を繋げたのは、教授達の温情の賜だった。マダム・ポンフリーの医術、スネイプ教授の魔法薬学、スプラウト教授の薬草学、そしてダンブルドア校長の指導力。 あの子がここで変わった理由が理解できた気がした。 2002/04/11 UP戻る |