再延命企画派生子育て話　ソルジャーは子沢山

「じゃあ僕と結婚して下さい」
「……何故？」
「養子をとるなら、夫婦でないと。ブルーは独り身じゃないですか」
「…そうだが。別に独り身でも構わないだろう？」
「構いますっ！子供には両親がいるって言ったのブルーじゃないですかっ」
「確かに言ったが。形態にこだわることもないだろう。女手が必要ならフィシスに…」
「絶対駄目です。トォニイが彼女嫌ってますからっ」
「…そうなのか？」
「そうですっ。それに、シャングリラでは養子取るなら夫婦が条件って決めてあるんです」
「…そんな取り決め聞いたことがないが？」
「当然です。ソルジャー権限で、僕が決めましたっ」
（たった今だろう？）ハーレイが脱力しきって、腹の底で突っ込みを入れた。
「…そうか、だが相手は君でなくても構わないだろう？」
「！！！？？？構いますっ絶対構いますっ！！僕以外の誰と結婚するつもりなんですか！？」
「必要なら、ハーレイかエラかヒルマンか…リオでも大丈夫かな」
「…なんで？」
「ジョミー…。君はなにか思い違いをしている。そもそも僕が彼らを引き取ると決めたのは、君の育て方に不満があるからだ。その君と、どうして結婚などできる？二親でなければならないというのなら、彼らの養育に益となる人物を選ぶのは当然だろう？」
　理路整然と説くブルーの前で、ソルジャー・シンが唖然とした顔のまま凍り付いた。
「ジョミー？」
　反応のなさを訝しんで、目の前で手を振ってみる。無反応だ。
「グラン・パ？」
　ブルーといるときはちょっかい出すなと厳命されているトオニィも、流石に心配になってきた。禁を破って、二人の前に進み、ジョミーの顔をのぞき込んだ。
「！！！！？」
　ぽた。ぽたた。見開かれた双眼から音もなく溢れた涙が、頬を伝って床に滴った。
「グラン・パ！？どうしたの！？」
　思わず二の腕をつかんだ。途端、ジョミーの思念が噴き出し流れ込んできた。
（ごめんなさいっ。ごめんなさいっ。謝るから赦して。僕を嫌いにならないでっ）
　それはそのまま、ジョミーにすがって泣いている自分自身に重なった。
（グラン・パ、そんなにブルーが好きなの？嫌われたくないの？）
　こくりと頷かれて、トオニィは泣きたくなった。でも、だけど…。そのときわき上がった気持ちを、トオニィは遠巻きに眺めるナスカチルドレン達に思念で打診し、受諾された。
　トオニィはブルーに向き直った。
「ソルジャー・ブルー。僕らに親を選ぶ権利はないのか？」
「もちろんあるよ？希望があるのなら、君たちの気持ちをこそ優先しよう」
「なら僕はグラン・パがいい。僕らはグラン・パと夫婦になる人の養子になる」
「それが総意かい？」
　ブルーが子供達を見回して問うた。6人の子供達が、皆一様に頷いた。
「わかった。子は鎹と言うからね。君たちは本当にいい子だね」
　ふわりと笑ったブルーに、頭を撫でられた。
「子供達に感謝しなさい、ジョミー」
　差し出された手の意味は、問うまでもない受諾の証。ブルーもろともジョミーに抱き絞められて、トオニィは、嬉しいんだか哀しいんだかわからないけれど、涙が溢れた。

＜終＞　　2007/09/05 UP

ジョミー初プロポーズ。初っぱなから尻に敷かれるの確定…。

頁頭へ

家族の肖像　１

「あれ？また縮んだ？」
「うん」
　頷いたトォニィの身長は、今朝はジョミーの肩ほどになっていた。
　人類と戦っていた頃は、ジョミーの背をも抜く長身だった。「急いで大きくなって、ジョミーを助けるんだ！」幼い一途な想いが肉体に反映されての成人体。その姿を、ブルーがひたすら不憫がった。あんまり嘆くので、子供達は困って、困って、そして相談して決めたのだ。ブルーが泣くから、元にもどろう、と。
「僕はゆっくりな方だよ。アルテラやツェーレンなんて、もうこんなだ」
　そういって、掌を胸のあたりで水平にかざした。すなわちジョミーの腰のあたり。
「みんなブルーには素直だね」
「そういう訳じゃないけど、なんか逆らえない…」
　そのふてくされたような照れたような頬のふくらませ方に、ジョミーは昔の自分を思い出して、くすぐったくなった。
「ママってそういうものだよ。僕のママもそうだった」
「そうなの？」
　見上げてくる金の瞳に、ジョミーは笑みと一緒に頷いた。
「子供でいられる時間は短いからね。急ぐ事なんてないんだ。そんなの後で後悔するだけだよ。だから、甘えられるときに甘えておきなさい」
　柔らかい巻き毛を撫でてやったら、トォニィがへえっとはにかんでしがみついてきた。抱くように腕を回し、背を押しながら歩を進める。子供部屋は、入り口から順に、プレイルーム、男女別の相部屋へと続いている。
　この頃のブルーは、青の間を留守にしてこっちにばかり入り浸っている。今朝も起きたらもういなかった。あんまりだ。僕より子供の方がいいのか？問えば盛大に溜息吐かれて、冷たい目を向けられるのわかってるけど、けど寂しい。
　溜息をこぼしたのだろうか？トォニィが見上げてきた。
「ジョミーはブルーの子供じゃないから、僕たちみたいに甘えちゃいけないって、ブルーが言ってたよ？」
「…わかってるよ」
　ええそうですよ。僕は大人ですから、朝はひとりで起きなきゃいけないし、着替えも自分でしなきゃいけないし、ごはんだってひとりで食べられますよ。でもさっ。僕らって一応新婚さんなんですけど…。
「…ジョミー暗いよ？」
　嗚呼、子供に心配されるようじゃ父親失格だ。 　
　凹んだ気分のまま、はしゃぎ声のする女の子部屋に踏み込んだジョミーはしばしフリーズした。愛娘達が、いやよく見れば息子達も、ミュウの民族衣装とはかけ離れた服を着せられている。
「…ブルー？なにこれ？」
「可愛かろう？」
「…可愛いけど、どうしたのこれ？」

＜続＞　　2007/09/09 UP
頁頭へ

２

「もらった」
　…エプロンドレスをですか？シスタードレスをですか？通販サイトでしかお目にかかったことのないミッション系女子制服をですか！？ていうか、誰に！？！！？
「僕に似合うといっていたが、見なさい。この子達の方が僕よりはるかによく似合う♪」
　鼻高々に宣言されてもですねぇ…。
　ジョミーは頭を抱えたくなった。
　アルテラはさらさらストレートを甘い三つ編みにして左右の胸前に垂らし、襟の先までレースの重ねられた白いブラウスを着込み、黒に近い紺色のAラインのワンピースと、同色の丈の短いボレロをまとっている。胸元にはでっかいリボンがくっつき、袖口からはフリフリレースと細い指が顔を出していた。足下はこれまた足首が埋もれる位レースのあしらわれた白いソックスと、艶光りする黒いエナメル靴。うん、可愛い。
　ペスタチオは袖の膨らんだ黒いタイトなロングドレスに、幅広ハイネックの白いケープと手首から肘にかけてラッパ型に広がる幅広の白カフスをつけ、黒いタイツに黒い編み上げブーツといういでたち。僕の前で得意げにターンしてくれた。裾からレースのペチコートが存在を主張し、妙にフィットしてるなと思った背中は、紐による編み上げになっていて、ウエスト後ろには幅広のリボンがくっついていた。
　ツェーレンは、もはや説明不要、白とブルーの取り合わせで有名な、アリスのエプロンドレス（レース過多）だ。青いリボンのカチューシャ、白と青のしましまタイツに黒いエナメル靴。なんつーマニア仕様。
（確かに似合うけど、似合うけどさっ。僕よりって、着たことあるのか？ブルー？）
「ジョミー、似合う？」
「似合う？」
「可愛い？」
　愛娘3人の、それはもう輝くつぶらな瞳に見つめられると、こっちが赤面してくるから怖い。
「素晴らしく可愛いです」
　わ〜いっっとはしゃぎ回る姿は本当に可愛い。これで、羽を背負わせたら、なるほどブルーの寝言（いやいつも堂々と公言してはばからないけど）「僕の天使達」ご一行様のできあがりだ。
　３歳児並に戻っているコブは、上手いことだまされているのだろう、ハイウエスト切り替えの、抱き人形が着ているようなワンピースを着せられている。これにヘッドドレス被せられて写真残されたら、男として一生の恥だな。…言えばブルーに叱られるから黙ってるけど。
　そういや見あらないなと探したタキオンは、部屋の隅っこに追い詰められ、白い膝丈のズボンと、ブルーのセーラーカラーの上着を着込んだタージオンに「おそろい♪」攻撃を受けていた。タージオンの頭にはベレー帽まで乗っている。
　以前はタージオンのお兄ちゃんっ子ぶりの方が目についたものだが、タージオンが蘇生してからというもの、タキオンのほうが弟を気にかけまくり、すっかり立場が逆転している。あれは逃げられまい。最初にアルテラとコブ、タージオンを抑えたブルーの勝利といえる。なんて感心していたら、ぽんっと背中を叩かれた。横に立ったトォニィが、見上げる仕草で問うてくる。
（僕も参加すべき？）
（頼むよ。ブルーの機嫌を損ねたくない）
（了解）
　しかたないなぁって声が聞こえそうな笑みを浮かべて、トォニィもタージオンの援護に回ってくれた。
　ブルーの「子供は子供らしく」は、どこか抜けている。というかずれている。これじゃコスプレ大会だっての。…でもまあ、ブルーが楽しそうだからいいか。
「もうちょっと小さくなったら、このドレスも着られそうだね？」
　今着ているのよりも一回り小さいサイズの、ショート丈のドレスを子供らにあてがってみせ、ブルーはご機嫌だ。レモンイエロー、すみれ色、ベビーピンク、子供心をくすぐる色ばかり。
「可愛い〜〜〜！」
「着たいっ着たいっ」
「あと１０�p位？」
　子供らも楽しそうだ。うん。
（…なんか微妙に会話があれだけど、まあ、細かいことはどうでもいいや）
　なんて和んでいるうちに、ブリッジに呼び出されて、貴重な朝のフリータイムは強制終了させられた。

＜続＞　　2007/09/18 UP

３

　嗚呼、今朝もおはようのキスすらさせてもらえなかった。
　廊下を歩きながらジョミーは黄昏れた。
　わかっちゃいるんだ。子供達がいなければ、そもそも結婚してもらえなかった。そんな「関係」だから、甘さを求めるのは筋違いだ。形でブルーを縛っても意味がない。そんなの百も承知だった。
　だけど僕はブルーが欲しかった。誰に示しても納得してもらえる明確な絆が欲しかった。二度と手放したくなかったんだ。
（タキオンのこと笑えないなぁ）
　笑おうとして、失敗した。最愛の人と入籍できて、子供もできて、誰よりも幸せであるはずなのに、幸せでいるべきなのに。
（僕はどこまで強欲なんだろう？）
　何もかも欲しい。ブルーの心も、身体も。彼の望みは全て叶えたいと思うし、そのために必要なものならなんでも手に入れたいと思う。それが、ブルー達世代のミュウと自分との明確な違い。実際ブルーの私物は、彼の淡泊すぎる性格を反映して、恐ろしく少なかった。ナスカ崩壊のあと、青の間の整理を手伝ったとき、その少なさに驚嘆した。少なすぎて形見分けすらできなかったほどだ。
　なのに今、子供部屋にあるグッズ類はすべてブルーの「私物」だ。シャングリラの被服部も関与していない。いつのまにやら子供部屋にあふれ出した子供服。その出所は…やっぱあそこしかないだろう。
　ジョミーはぐっと拳を握りしめた。一年近くブルーを独占していたグレイブ・マードックとその部下っ。あいつら僕らを散々びっくり人間呼ばわりするくせに、自分たちだって違う意味でびっくりじゃないかっ。どうして僕の邪魔ばっかりするかな！？
　いまこうしてひとりで廊下を歩いているのも、家族水入らずを邪魔したのも、マードックからの通信のせいだ。あいつ、僕に恨みでもあるのか？
　もはや完全に八つ当たりな思考で頭を沸騰させながら、ジョミーはブリッジに跳躍した。

＜続＞　　2007/09/24 UP

１　子は鎹

「じゃあ僕と結婚して下さい」

＜終＞　　2007/09/05 UP