FOG　BLUE



１



「隠し事をしているだろう？」
　確信があった。だからここに来た。
　こんな時間にこんな場所で、顔を合わせることなど思ってもいなかっただうに、ルシウスはいつもの貼り付いた仮面のように表情のない貌で、進路を塞いだ彼を一瞥しただけだった。
　書斎からプライベートルームへ続く回廊。彼の気性を反映したものか、この一角は人の気配がなかった。繊細な蜘蛛の巣を幾重にも重ねたような高度な防護魔法だけ。使用人のひとりも置かない。アーサーは全てを拒絶しているルシウスの私生活を垣間見た気がした。
「どうなんだ？」
「質問の主旨が理解できない」
　抑揚のない声。
「隠す？なにを？」
薄い唇が弄ぶように言葉を転がし、躊躇う様子もなく言い放った。
「私はおまえと隠し事をするような関係にはない」
「俺は、あんたを知ってる」
「当然だ」
　そう、当然だ。ルシウスは有名だから。いろいろな意味で。
「違うね。俺は、あんたそのものを知ってる」
　言い放って驚いた。ルシウスが笑った。切れ長の眼を細め、唇がうっすらと弧を描く。
「愚かな」
「ルシウス！」
「軽々しく呼ぶな」
　斬りつけるように鋭い声だった。
　アーサーは一歩踏みだし、ルシウスの二の腕を掴み、覗き込むようにして重ねて問うた。
「娘になにをした？」
「…娘？」
「ジニーだ！ホグワーツにいる、末の娘だ。あの日記帳！忌々しいヴォルデモートの文房具！おまえが仕掛けたことだろう！？！」
　ホグワーツを恐怖にたたき落とした秘密の部屋事件。その元凶となったヴォルデモートの日記帳。そんな物騒な代物がどこから湧いたというのか。いいや、誰かが故意に与えたのだ。いつ？どこで？去年の夏、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店で。ルシウスと喧嘩したあの時としか考えられない。
　詰め寄るアーサーに、ルシウスは鼻白んだような冷笑を浮かべた。
「言いがかりだな」
「先日押収したおまえのお宝と、魔法形態が似ていた」
「証拠でもあるのか？」
「…証人はいる」
　握った腕越しに、彼の動揺が伝わった。

　　　
2002/04/19　脱稿
　
アーサー×ルシウス前提です。
モリー母さんも公認だ！（腐れ外道）さあ、どうなることやら。焼けぼっくいに火はつくか？

↑　→