FOG　BLUE



５



　　 前をはだけさせさせた頃、ルシウスが身動いだ。苦しそうに、眉が寄せられ、数回、確かめるように瞬きが行われた後、目を覚ました。
　ぼんやりと焦点の定まらない瞳が、天蓋を見上げ、室内をゆっくりと逡巡し、最後にのし掛かるアーサーに留まった。
「…アーサー？」
　その声音はハスキーさを増していて昔と違うけれど、口調は当時のままだった。
「なにをしている？」
「夜這い♪」
　学生の頃を装い、軽い口調で返した。ここはホグワーツの自室で、僕らは学生だ。どうぞ、ひっかかりますように。
「…万年発情期か。重いぞ」
　不機嫌さを顕わにした声。アーサーはその声よりも、反応に驚いた。こんなに簡単にひっかかるなんて。それよりもなによりも、この態度。どういうことだ？ルシウスはアーサーを捨てたはずなのに。往時の関係は、彼の中で否定されていないのか？
「うなされてた」
　片肘をつき、反対側の肩を持ちあげたルシウスを助けおこし、腕を取って、背中から抱き込んだ。右肩に頭が乗る。昔、夜寒いときはこうしていた。
「悪い夢でも観たのか？」　
「…夢？」
　薬の所為だろう。ぼんやりと力のない声。
「夢だろう？うなされてたんだから。なにを見た？」
「…覚えていない」
「今し方の夢だぞ？どんな夢だ？」
「…思い出せない」
　アーサーは耳元で囁き続けた。全ては夢だ。長い長い悪夢だ。貴方は夢を見ただけだ。夢の中で、なにが起きたのか話せ。夢の中でなにをしたのか話せ。
　記憶を操作する魔法では、跡が残る。ヴォルデモートのような強力な魔法使いには見破られてしまうだろう。それでは不味いのだ。痕跡を残さず、聞き出す方法。それは寝間の睦言だった。
　アーサーは促し続けた。ルシウスは、むずがるばかりだった。
「…死んでるみたいだったぞ？覚えていないのか？心配になって起こそうとしたら、今度は酷くうなされて…。心配なんだ。話してくれ」
　細い体を抱きしめ、肩口に顔を埋めた。昔と変わらないコロンが香った。
「…死ぬ？」
　不穏な言葉に、ぴくりと腕の中の体が反応した。
「…その方が楽だったな」
　自嘲気味な声にぎょっとした。
「…ルシウス？」
　顔を上げ覗き込むアーサーの首に、ルシウスの両腕が回された。体を斜めにずらし、膝に乗るような姿勢になる。支えるアーサーにルシウスは妖艶な笑みを浮かべた。喋りたくないのだ。そしてこれは、この貌は、促している合図だ。

2002/04/29　脱稿
2002/06/17　修正
　
書くことぼかして表に留まるか、書くこと書いて墨部屋送りか…。さてどうしよう？
年齢計算したら同期でいけそうになたので、口調を直しました。

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