WILD　CHILD　〜極光〜


１



「どうした？」
　フィルチは足元を見下ろした。闇の中、寄り添うようにして歩いていた愛猫が足を止めたのだ。
　長いヒゲをピンと張り、首をもたげて鼻をひくつかせる。ぴくっとひときわ大きく耳を動かし、くるりと後ろを振り返った。
「愚かな冒険者がいるのだな？」
　主の問に、彼女は光る瞳を瞬きさせて応えた。次いで足音もなく走り出した。
　薄暗い廊下でミセス・ノリスは足を止めた。振り返り、主に向かって一声鳴いた。
　声を頼りにたどり着いたフィルチは、獲物を見つけてほくそ笑んだ。
　ドアに何者かがもたれ掛かっていた。寒いのだろう。ローブですっぽり体を被っている。手もとのカンテラを掲げると、ローブからはみ出した銀色の髪が淡く光った。
「こんな時間に迷子かね？それとも診察かね？」
　生徒がもたれていたのは医務室のドアだった。皮肉たっぷりの呼びかけに、子供は無反応だ。眠り込んでいるのだろうか。
　生徒の厚かましさに腹を立て、フィルチは彼を揺り起こそうと身を屈めた。肩に触れた途端、ローブの子供は横倒しに倒れた。
　つんっと嫌な臭いが、鼻を突いた。血の臭いだ。　
「どうした？おいっ！！」
　カンテラを廊下に置き、倒れた子供を抱き起こす。仰向かせて、驚いた。違反者は眠っているのではない。気を失っているのだ。脂汗と苦痛に歪んだ貌。しなやかな銀髪が白い肌に張り付いていた。制服は埃にまみれ、頬や手の甲には擦り傷や裂傷が見られた。
「私刑か」
　吐き捨てるように呟いた。
「起きろ。誰にやられた？ここまで自力できたのか？応えろっ」
　抱き起こして、違和感に眉を寄せた。だらりと垂れた腕。その掌の向き。
　フィルチは血相を変えて、医務室のドアを叩いた。
「マダム・ポンフリーッ。開けてくださいっ。急患ですっ。」
　
2001/12/20　脱稿
　ええと、IF４年生編です。だって、英語読めないから４巻邦訳出るまでお預けなんだもん。
　マルフォイ、不幸です。しかも長いです。テーマのわりにエロくないです。切な系のお好きな人、おつき合い下さい。


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