WILD　CHILD　〜極光〜



１０



「うわっ」
　マルフォイは、短い悲鳴を発して目を覚ました。間近に取り巻きが雁首揃えて覗き込んでいたから、もう一度驚いてベッドに沈み込んだ。
「大丈夫か？医務室に行くか？」
「スネイプ先生を呼ぼうか？」
　口々にまくしたてられ、マルフォイは閉口した。
「…どうしたんだ？」
　顔にかかった乱れ髪を掻き上げ、マルフォイは怪訝な顔をした。二人ともパジャマ姿だ。ベッドサイドの時計は午前２時を指している。
「…うなされてた。薬貰ってこようか？」
「…そう。薬は要らない。もう寝ろ。僕も寝る」
「けど…」
「ちょっと夢見が悪かっただけだ。心配ない。お休み」
　二人をベッドから押し出し、さっさとカーテンを引いて掛け布団を被った。二人ともカーテンの外で躊躇っているようだったが、しばらくしてそれぞれのベッドに潜る音が聞こえた。
　マルフォイは、音を立てないよう注意を払いながらベッドに起きあがった。枕の下から杖を取り出す。胸の前にかざし、静かに呪文を唱えた。音を遮蔽する魔法だ。これでどんなに叫んでもカーテンから外へ音が漏れることはない。
（馬鹿なこと、口足っていなければいいが…）
　膝を抱いて、蹲った。
　こうして薄闇の中にいると、あのときの出来事がまざまざと蘇った。
　どうしてあんな目にあったのか、マルフォイ自身、わからなかった。あんな部屋があるのも知らなかった。背後から腕を掴まれ、斜めに引っ張られた。石壁にぶつかると身構えた途端、体は壁を突き抜け、冷たい石畳の上に転がった。突き抜けたのではなく、壁が動いたのだと悟ったとき、壁は光の筋を残して閉じていた。取りすがり、爪を立てた。無意味だった。明かりを灯そうと杖を取り出した。その手を誰かが叩いた。杖は音を立てて床に落ちた。
　誰何の言葉は声にならなかった。猿ぐつわを噛まされ、目隠しをされた。ネクタイがはぎ取られて手首に絡まった。それから先のことは、思い出すのすらおぞましい。
「…う…うっく…」
　噛みしめた唇の隙間から嗚咽が漏れた。
「二度目がないともかぎらん」
　ダンブルドアの言葉が耳から離れない。
「あ…嫌…嫌ぁ…」
　肌が総毛立ち、冷や汗が吹き出した。マルフォイは髪を掻きむしり、ベッドに突っ伏した。四角く切り取った空間に、啜り泣く声だけがいつまでも響いた。
2001/12/29　UP
　

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