WILD　CHILD　〜極光〜



１１



　それは偶然だった。
　ハーマイオニーは変身術の質問のため、マクゴナガルの教授室へやってきた。
　失礼のないよう身なりを繕い、すうっと息を吸い込んで気持ちを整え、ノックをしようと右手を掲げた。そのとき、室内の話し声を漏れ聞いてしまったのだ。重い扉がかすかに開いていた。マダム・ポンフリーの声だった。
「では、校長はこのまま放置するとおっしゃるのですか？」
「そうではない。しばらく様子を見たいのじゃ」
　ダンブルドアの声に、ハーマイオニーは目を瞬かせた。マクゴナガルの部屋にマダム・ポンフリーとダンブルドア。おかしな取り合わせだ。悪いと知りつつも、ハーマイオニーは聞き耳を立てずにはおれなかった。
「様子を見る？本気ですか？彼は被害者なのですよ？犯人は生徒の中にいます。これを罰しないでどうするのです」
「そう、それが問題なのじゃ」
「どういうことです？ダンブルドア」
　マクゴナガルの声だ。
「我々が知っているのは、彼が倒れていた、それだけだ」
「それだけですって？それで充分でしょう！？」
「よろしいか、マダム・ポンフリー。相手が誰なのか、が問題ではないのだよ」
　一呼吸を置いて、続けた。
「同意の上の情事であったのか、強姦されたのか。それが問題なのじゃ」
　淡々と語られた言葉に、ハーマイオニーは赤面した。
「馬鹿な。あの子は腕を折られていたのですよ？そんな酷いことをする恋人がいますかっ」
「医務室の前に倒れていたのは、配慮の現れかもしれん」
「貴方はお人好しが過ぎますっ」
「合意でなかったとしても、彼は相手を知っていて、庇っているのかもしれん」
「なんてこと」
　マクゴナガルの声は沈痛な色を帯びた。
「全ては彼次第なのじゃ。彼が告発するなら、わしは必ず犯人を捜し出し厳重に罰する。だが、恋人とのトラブルだとしたら、騒ぎ立てるのは却ってよくない。そうであろう？」
「ええ。わかります。でも…」
「わかっておる。マルフォイには留意する。彼の回りの生徒にもな」
　それ以上聞いておられず、ハーマイオニーはその場を離れた。不覚にも涙が溢れてきた。
なんてことだろう。あの噂は憶測ではなかった。ドラコ・マルフォイが強姦された。不名誉な噂は事実だったのだ。
「なんてこと。なんてことなの」
　しゃくり上げるハーマイオニーを宥めるのに、ロンとハリーは酷く手を焼いた。
2001/12/30　UP
　

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