WILD　CHILD　〜極光〜



１２



　三人は膝を抱え、尖塔のアーチから、夕焼け空を見上げていた。茜色の空が、錆色にくすんでゆく。
　ハーマイオニーはまだハンカチを握りしめ、ときおりしゃくり上げていた。
「変な気分だな」
　ロンが云った。悪戯が見つかって怒られたときのような顔をしていた。
「ものすっごく嫌な奴だろ、あいつ。非道い目にあって、いい気味だって笑いたいのに、笑えない」
　どこかが痛むように顔を顰め、鼻をすすり上げた。
「あんな姿、見ちゃったからかな…」
「マルフォイのお母さんってどんな人だろう？」
　ハリーが問うた。
「しらない。親父の方は有名だけどな」
「優しいお母さんなのかな」
「たぶんね。あいつ謝ってたろ。寝言でさ」
「きっとあの陰険な父親に、息子の出来の悪のはお前の所為だって虐げられてるのよ。可哀想」
「可哀想だけど、そうやって彼と彼のお母さんが泣くのは、僕らの所為なんだろう？」
「そんなこと云われたって、仕方ないじゃないか、ハリー。事実あいつは嫌な奴で、僕らとはそりが合わないんだから」
「そうだよね。嫌な奴なんだよな。マルフォイは。とっても嫌な奴で…可哀想な奴なんだな」
　ハリーは手すりの石組みに目線を落とした。
「そうね。あんな嫌な奴のために、涙が止まらないなんて、私どうかしてる」
　涙でくしゃくしゃになった顔を拭いながら、ハーマイオニーが零した。
「それに、そうよ、酷い事よ。だって、あたし強姦だって決めつけていたの。痴話喧嘩かも知れない」
「無理にそう思い込もうとしているだろう？ハーマイオニー」
「そう思わなきゃ、やり切れないわよ」
「だけどさ、あいつに恋人がいたと思う？」
　ハーマイオニーは吐息を吐いて首を横に振った。ハリーも横に振った。
「考えてもみなよ。あいつには友達らしい友達もいないんだぜ？いるのは体がでかいばかりのうすのろ腰巾着だけさ。恋人なんて想像つかないよ」
「年下の女の子ならともかく、腕を折るような男の子…ですもんね」
ハリー同様、マルフォイにも取り巻きはいる。そのほとんどは下級生だったし、崇拝者に近い。ドラコに手を挙げるものはいないだろう。
「スリザリンの寮生ではないだろうな」
「そうね。マルフォイはスネイプのお気に入りだもの」
「誰なんだろう…」
「わからないわ」
　二人は犯人を探し出したい衝動に駆られた。
「…気丈だよね。マルフォイは」
　それまで黙っていたハリーがぽつりと云った。
「そんな目にあっても、素振りも見せない。いつも通りに振る舞ってる」
「なんとも思ってないのかも」
ロンが、おどけた口調で云った。
「馬鹿ね。そんなわけないでしょ。無理しているのよ」
「…ごめん」
「馬鹿。わたしに謝るようなことじゃないでしょ」
　ロンは困って頭を掻いた。
「マルフォイはすごいね」
「そうね、ハリー。少し見直したわ」
　ハーマイオニーはハンカチを畳み直した。
　犯人探しはしないことに決めた。彼が黙秘を貫く以上、それを暴き立てるのは彼の自尊心を踏みにじる行為に思えたのだ。
2001/12/3１　UP
　

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