WILD CHILD 〜極光〜１４「馬鹿な奴。ハリー・ポッターはお前が嫌いだ。それはお前自身がよく知っていることじゃないか」 耳にこびりついた、あの言葉。 「うるさいっ！！そんなこと云われなくたってわかってる。僕だって、大嫌いだっ」 マルフォイは積み上げてあった本を床になぎ倒した。 「嫌い嫌い嫌いっ、大っ嫌いっ」 部屋の私物を手当たり次第、床にたたきつける。陶器の割れる音。細工物の砕ける音。同室の二人が触らぬ神に祟りなしと逃げ出す、マルフォイのヒステリーだった。 あの声が耳に蘇る。なにもかもが気に入らない。散々部屋を散らかした。肩で息をし、疲れ果ててシーツに仰臥した。 「馬鹿な奴。ハリー・ポッターはお前が嫌いだ。それはお前自身がよく知っていることじゃないか」 声がする。あいつの声が。口惜しさに、眦に熱いものがふくらんだ。 自由を奪われたとき、暴力を振るわれるのだと思った。殴られることも蹴られることもなかった。衣服に手をかけられ、目的を悟った。がむしゃらに抵抗した。手荒く動きを封じられ、組み伏せられた。体をまさぐられた。おぞましさかった。隙を見つけて逃げ出そうとした。すぐ押さえつけられて、腕を折られた。奴は嗤っていた。激痛にのたうち回る姿を嗤って見ていた。 そしてマルフォイは奴を垣間見た。 顔は見えなかった。声だけ。人の形があるべき場所にはなにもなかった。 怖かった。塞がれた口からくぐもった声で助けを求めた。スネイプ。父上。そしてハリー・ポッター。 どうして奴の名を口走ったのか。自分でもわからない。その言葉を奴になじられたことが、何故こんなに悔しいのか。 自分が怯え泣くことが無上の喜びのように奴は嗤った。そして嗄れた声で嘲った。 「馬鹿な奴。ハリー・ポッターはお前が嫌いだ。それはお前自身がよく知っていることじゃないか」 （そうさ。奴は僕を嫌っている。僕たちは憎みあってるんだ。ライバルなんだ。そんなこと、この僕が一番よく知っている。それを…。） 純然たる事実を突きつけられるのが、どうして辛いのか。やつが悦んでいるのがわかるのに、自分が泣くことが奴を悦ばせているのだとわかっているのに。マルフォイは涙が溢れて止まらなかった。 昼間のハリーの顔がよぎる。あの、無表情な、無関心な顔。 「馬鹿にしてっ。そっちがその気なら僕だってっ。もう、知るもんかっ」 マルフォイは力任せに枕を床に叩きつけた。 以後、三人を完全に無視するようになった。 2002/1/2 UP← → |