WILD CHILD 〜極光〜１５ハーマイオニーは密かに驚いていた。 マルフォイが自分達を無視するようになって一週間になる。その間、本当になにもなかった。これまで毎日のように悪態をついていたにらみ合いは、マルフォイの執念の為せる技であったのだ。 こう完璧に無視されると、逆に気になって仕方なくなるのが人情というものだろう。ハーマイオニーは、女生徒達に混じって遠巻きに眺めた。牙を納めたマルフォイは、毒気が抜けたように小さく感じられた。巨体の取り巻きにかしずかれ、ガラスケースの中に佇んでいるアンティークドールのように見えた。 「ああやって、大人しくしていると、綺麗よね。彼」 昼食の席で洩らされた溜息に、同席していたロンとハリーは咽せた。 「あたしみたいにそばかすもないし、髪も綺麗なストレートよ。きっと枝毛なんかないんでしょうね。羨ましいかも…」 「なんか違うと思うぞ。それ」 ロンが、半分引き気味に云った。 「そう？女子生徒の間では話題なのよ。見ている分には、綺麗だもの」 ロンとハリーは顔を見合わせて、疲れた溜息をついた。 「あら、論より証拠よ。コリンに聞いてご覧なさいよ」 コリンは一学年下のハリーの追っかけだ。趣味は写真撮影。校内新聞記者のホープでもある。 「なんであいつの名前が出てくるんだ？」 「盗撮ポートレートの売上個人ランキングの話、知らないの？マルフォイはダントツの売上を誇っているそうよ」 魔法界の写真は動くが、マグルの写真は動かない。最高のショットをそのまま永遠に留めておくことができる。こちらの世界では非常に珍しいものだった。 「女ってのは…」 「面食いなの。綺麗なのが好きなの」 「悪うございましたね。赤毛のそばかすで」 「あたしだって…天パのそばかすよ。もう、嫌になっちゃう。雨の日はまとまんないし」 装飾窓を叩く雨足を怨めしげに眺め、髪に手櫛を入れようとして、途中で止まった。絡んだのだ。 「どうしたかったの？」 「この辺、編み込みにしたかったんだけど、今朝しようとして失敗したのよ」 「やったげる。じっとしてて」 「ありがとう。ロン」 彼はフィンガーボールで手を洗い、ナプキンでよく拭いてから、隣りに座るハーマイオニーの髪を結い直した。持ち主も手を焼くふわふわ癖毛も、ロンには不思議と素直だ。ロンは器用に髪をすくい上げ部分編み込みを作った. 「相変わらず、器用だね」 手慣れた様に、向かいの席に座るハリーが感嘆の声を漏らす。 「妹の係りだったからね。僕は。慣れだよ」 兄弟の多いロンは、入学まで妹の世話をしていた。彼女の髪を整えるのが日課だった。幼いばかりだった妹も、今では３年生。自分のことは自分でできる。お役後免になるかと思われたロンの特技は、勉強一本槍で、ともすると爆発頭を無理に束ねて誤魔化そうとするハーマイオニーに活かされることになった。 「ありがとう。気合いが入ったわ」 リボンで飾られた三つ編みの先を指ですくい、ハーマイオニーは満足そうに笑った。 「なんかあるの？」 「今日はテストの返却日でしょ。どうしても、したいことがあるの」 ぐぐっと拳り、意気込みたっぷりのハーマイオニーに、「そんなのが楽しみなのは、きっと君だけだと思うよ」と言いかけて、ハリーとロンは口をつぐんだ。 2002/1/3 UP← → |