WILD CHILD 〜極光〜１７放課後、魔法薬学の教室は生徒で溢れた。 目的はハーマイオニーとマルフォイの一騎打ちだ。 件の実験を、マルフォイは無駄なく効率よく進めてゆく。彼の指示に従ってクラッブが薬草を刻み、読み上げる数値をゴイルが書き留める。無駄のないチームワークだ。 その隣で、ハーマイオニーはどたばたとやっていた。見かねたロンとハリーが計量を手伝いだした。 「ハーマイオニー、教科書にはみじん切りってあるんだけど？何処？」 乱切りにしかみえない薬材をまえに途方に暮れた声。 「そこにあるでしょ？」 測りに目をやったまま、ハーマイオニーが不機嫌そうに答えた。 やっぱりといわんばかりの溜息をついて、ロンはナイフを取り出し刻みだした。少しはましになったっが形が不揃いだ。 「おい」 マルフォイがクラッブに軽く顎をしゃくった。手伝ってやれ、との指示だ。のっそり近づいてきたクラッブに、ハーマイオニーは甲高い声を上げた。 「余計なお世話よっ」 「…材料が無駄になる。授業外だぞ」 マルフォイの忠告は手痛いところを突いていた。クラッブがでかい図体でロンの隣りに立ち、慣れた手つきで薬草を刻みだした。その細かいことといったらない。見る見る粉砕されてゆく。ハリーもロンも手を休めて彼の手元に眺め入った。 「…器用なんだね」 「ん。慣れた」 感嘆の言葉に返されたのは短い言葉。どうやら照れているらしい。とつとつと話し、もそもそと動く。後ろから蹴飛ばしたくなる機敏のなさだ。だが手元は確実に動いている。ハーマイオニーの実験速度よりはるかに早く、材料の下準備を片付け、彼はマルフォイのもとに戻っていった。 見物に飽き、べっこう飴を作り出した面々の輪に、ハリーとロンが加わった頃、ハーマイオニーとマルフォイは、一つの鍋を前に新たな実験に没頭していた。ハーマイオニーが持参した上級学年の参考書の作例に手を伸ばしたのだ。 ああでもないこうでもないと呟き合いながら、実験を繰り返す。余人を近づかせないオーラが放出されていた。 「マッドサイエンティストだな、ありゃ」 「同感。よく飽きないよな」 遠巻きに眺める見物人が驚嘆した。 「人間計量器か？マルフォイは」 ひとつまみ、一握りが、的確に目的量なのだ。一見乱暴な技に計量を求めたハーマイオニーも、その回数が１０回を越え、全く誤差のないことに驚き、納得してしまった。彼がこれまで如何に多くの実験を繰り返していたのかが偲ばれる妙技だった。 「あの二人、気が合うのかもね」 喧嘩腰にののしい合いながら、それでも手を休めない。鍋を覗き込んでは討論し次の実験を繰り返す。それが延々と続いている。 「なにが愉しいんだか…。あ、やばいぞ。鍋、吹き上がってないか？」 爆発音と渦を巻いたような笑い声。 準備室から顔を出したスネイプが見たのは、煤まみれになって尻餅をつく二人と、それを助け起こす学友達の姿だった。 「ふむ。美味しいものをつくっておるのぅ」 生徒達の後ろに、白ヒゲを薄い煤色に染めたダンブルドアが立っていた。手には銀紙が乗っている。 「懐かしい味じゃ。マルフォイ、グレンジャー、君たちもどうかね？」 差し出された銀紙の上に貼り付いた、きらきらと光沢の美しい琥珀色。星の形や、木の形。よくわからない渦巻き模様。一つとして同じものはない。 口に含んだべっこう飴は、仄かな煤の風味とカラメルの香りがした。舌の上でとろける濃密な甘さに緊張が解れる。二人は互いの姿を見て笑い、取り巻く同窓生達の姿にも吹き出した。その場に居合わせた誰もが笑っていた。 「良い顔をしておるの」 ダンブルドアは人なつこい笑顔を浮かべ、マルフォイ、ハーマイオニー、ロン、ハリー、ゴイル、クラッブそれぞれの頭を撫でていった。マルフォイにはその感触が暖かく懐かしいものに思われた。 2002/1/5 UP← → |