WILD CHILD 〜極光〜１９意識が戻ったとき、視界は遮られていた。腕の自由も利かない。石畳の堅さがローブ越しに背中に伝わった。 マルフォイは自分の置かれた状況を瞬時に理解した。 空気が直接下肢に触れている。冷たさに身震いした。 生暖かい感触が膝頭を握った。左右に押し開き、誰かが間に入り込んだ気配がした。マルフォイは膝を閉じようとしたけれども出来なかった。体を堅くした。その人は太股の内側を撫で上げ、確かめるように足の付け根に手を這わせた。 「傷は治ったようだな」 それが秘部の裂傷のことだと悟って、マルフォイは朱に染まった。 「あんなに血が出るなんて思わなかったんだ。悪かった。今度は大丈夫だから」 「ふ、ふざけるなっ。離れろ化け物っ」 威嚇の声は上擦っていた。猿ぐつわはされていなかった。 「怖い？」 震える声に愉快そうに喉を鳴らし、その人が問うた。 「お前、誰？なぜ僕を襲う？」 「どうして出かけなかった？」 逆に問われた。 「学校にいれば安全だと思った？ダンブルドアが守っていると思った？今日は先生方も外出中だ。残念だったな」 くつくつと咽で笑う音が響いた。 「セックスに興味はない？」 マルフォイは返事を拒んだ。答えなど期待していないのか、彼は続けた。 「俺はある。誰かを抱いてみたかった」 感触を愉しむように、マルフォイの肌をなで回す。シャツの内側に潜り込み、紅い突起を弄んだ。 「女は面倒だ。手間がかかるし、間違いがあると責任をとらなきゃならなくなる」 「男なら、妊娠しない？」 「そうさ。君はちょうどいい」 「ごめんだね。僕にだって好みはある。他をあたってほしいな」 「嫌だね。君は悪い子だ。お仕置きが必要さ」 「必要ないっ」 金切声は無視された。 「これ。試してみたい」 冷たい感触が触れた。ねっとりとした液体だった。蕾の中にまで丹念に塗りつけられた。 「ひあっ」 マルフォイは仰け反った。撒かれたガソリンに火がついたように、焼くような疼きが瞬時に拡がった。 「どう？きもちいい？」 耳元で囁かれた。その吐息にすら過剰に反応した。僅かな刺激が津波のような疼きになる。目隠しを涙で湿らせ、マルフォイは身悶えた。塗りつけられたのは強力な媚薬だった。 「女と違って分泌液が出ないから、潤滑剤が必要なんだ。でないとまたこの前みたいな怪我をすることになる。痛いより、気持ちがいい方がいいだろう？」 声が遠退き、のし掛かっていた重さが消えた。息吐く間もなく、柔らかい感触が敏感すぎる肌を撫でた。からかうように、何度も。マルフォイの咽から意味を為さない叫びがこぼれた。 「良い声だね。もっと啼いてよ」 揶揄する声にマルフォイは唇を噛んだ。 「可愛くないなぁ。そろそろ欲しくない？」 マルフォイは激しく頸を横に振った。頑なな態度に業を煮やしたのだろう、彼が馬乗りにのし掛かってきた。一つに括られた腕を頭の上に押しつける。指の感触が耳の裏を走った。体が引きつけを起こしたように痙攣した。 「啼いてよ」 「誰が…お断りだっ」 ねっとりとなま暖かいなにかが耳朶を含んだ。ざらざらとした感触が肉の薄い耳たぶをしゃぶる。その音。息づかい。マルフォイは息を飲んだ。気持ち悪い。腕は手首を交差する恰好で縛られている。掌に触れる上腕を握りしめた。おぞましさに爪が立つ。爪は皮膚を破り肉に食い込んだ。ぷっくりと紅い塊が浮き上がり、崩れて流れた。 「大した気位だ。気に入ったよ。ドラコ・マルフォイ。それでこそ愉しみ甲斐がある。ご褒美をあげる。本当はお強請りして欲しかったんだけどね」 覆い被さっていた圧迫感が薄らいだ。のし掛かっていた体重も消えた。マルフォイは体を横転させ肘をついた。反動で体を起こし逃げようと試みた。すぐさま左肩を掴まれ床に押しつけられた。仰向けにさせられ、膝の間に割り込まれた。 「離せ。馬鹿、変態。止めろぉっ」 叫んでいた。上擦った涙声になっていた。無駄だった。太股を胸に押しつけるように持ちあげられ、熱いものが押しつけられた。絹を裂くような悲鳴が上がった。媚薬に麻痺させられた器官は歓喜に狂って楔に吸い付いた。 「最高…」 恍惚としたうめき声が上がった。 突き上げられて、体がずり上がる。目隠しがずれた。僅かな視界では、のし掛かっている奴を見ることはできない。マルフォイは頸を廻らせた。壁に鏡がかかっていた。割れて、埃まみれだ。だが、確かに室内を映している。マルフォイは目を凝らした。自分を喰らう獣の姿を見極めようとした。 映っていたのは、腰を上げ虚空に足を絡ませた自分の姿。己を犯す人物が写るべき空間にはなにもない。 「い、いやぁっっ」 絶叫が高い天井に響いた。 2002/1/6 UP← → |