WILD　CHILD　〜極光〜



２１


　繰り返し貫かれた体は関節という関節が悲鳴を上げていた。自力で歩くことはできなかった。医務室の前まで連れて行ってやるという彼に、マルフォイは寮に連れてゆけと訴えた。
「また、会ってくれる？」
　奇妙な申し出だった。この前も今も、自分の意向などお構いなしだった。こちらの都合など考えず一方的に強姦したくせに、この奥ゆかしさはなんなのだろう。
「僕に選択の余地があるとは思えない」
　どう解釈したのかはしれない。再び目隠しをされ、抱き上げられた。なにかが瞼に触れた。気がつけば、寮のベッドの上だった。夢でないのは、体の痛みで知れた。
「…取引したことになるのか」
　ひたひたと打ち寄せる睡魔の波に浸りながら、呟いた。　
　マルフォイは事が表沙汰になることを恐れた。このことを父に報告されるのが怖かったのだ。
（今度こそ、見放されるかも知れない。）
　ホグワーツに進学するまで、彼は父の自慢の息子だった。そうでなくなって４年。父の期待に応えることができない、失望させるばかりの不甲斐ない自分が、口惜しかった。
「…なんだったんだろう。あれは…」
　あれの正体はなんなのだろう。学校憑きの幽霊ですら知らない、化け物。学校史にもこのあたりの郷土史にも、それらしい記述はなかった。今の学年では無理でも、より上級の魔法を修得すれば可能になる「姿隠しの魔法」を悪用した上級生の仕業だろうか？いいや、それにしては、自分やポッターについて知りすぎている。
「卑怯者…か」
　あろうことか化け物に罵倒された。笑いが込みあげてきた。
　化け物が云った通りだと思った。自分がポッターをからかうためにしてきた様々な嫌がらせ。度の過ぎたこともあった。
（馬鹿みたい。醜いのは僕のほうじゃないか。だからあんなのに付け入られるんだ。僕が呼び込んだようなものだ。化け物のほうが正論を吐くなんて…）
　悔しくて涙が溢れた。
（こんなはずじゃなかった。僕の歩むべき道はこんなのじゃない。父上が示した道はこんな惨めな道じゃない。どうして僕は…。こんなはずじゃないのに。どうしよう。父上の期待に応えられない。僕は…僕がなりたかったのはこんな僕じゃない）
「ポッター…」
　妬ましい者の名が口をついて出た。彼を拒んだ人間。彼を否定した人間。彼の持たない多くのものを持つ者。名声・未来・友人・信頼…。
（僕にはなにもない。どうして…父上。父上助けて。どうすれば父上の期待に応えられるの。どうすれば僕は僕らしくなれるの。どうすればいいの。助けて…。誰か助けて…）
　涙をこぼしながら、眠りの淵に落ちていった。戻ってきたルームメイトに揺り起こされるまで、うなされていた。
　尋常でない様子を心配する二人を、マルフォイは腹いせに叱りとばした。
　更なる自己嫌悪を抱え込み、また眠れぬ日々を送ることになった。
2002/1/7　UP

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