WILD CHILD 〜極光〜３ホグワーツ魔法魔術学校は、なにもかもが古風でいかめしく、セピア色に染まっている。その中にあって、医務室だけは清潔さを強調する白で埋め尽くされていた。 味気ないパイプベッドに薬草臭の染みついた寝具。際奥の一台が、薄い青緑色のカーテンで厳重に仕切られていた。フィルチに担ぎ込まれた少年は、そのままここで治療を受けていた。幸い折れていた腕は完治した。意識を取り戻し、興奮状態が収まった三日目の午後、二人の教師が彼の枕元を訪れた。 「では、なにも覚えていないというのかね？」 ねっとりとした口調でスネイプが問うた。予想していた回答を引き出せないことに苛ついているのだ。 ベッドに上半身を起こしたマルフォイは頷いた。色の白い肌が青ざめていた。唇を噛みしめ、見下ろす教師達の意味深い視線に必至に耐えている。 「今度のことは只の事故です。先生」 「ふざけるな」スネイプが怒鳴った。 「階段で足を滑らせたと？それで腕を折ったと？そんな馬鹿げた言い訳が通じるとでも思うのかね」 信じられるわけがないっと、顔を歪めた。 さらに言い募ろうとするスネイプを片腕で制し、ダンブルドアが口を開いた。滋味のこもった柔らかい物言いだった。 「いいかね。マルフォイ。君の気持ちは判らなくもない。だがね、これは少々やりすぎだ。少なからぬお仕置きが必要だと思うのだよ。君をこのような目に遭わせた相手にね。そのためには君の証言が必要だ。教えてくれんかね。あの晩、なにがあったのかな？」 諭すように問うダンブルドアにも、マルフォイは頑なだった。 「ですから、何度も申し上げました」 「は、なにもなかったと？その傷、その熱でか？正直に話したまえ。マルフォイ。君は、不心得者に乱暴されたのだ。暴力を加えられた。それだけでは飽きたらず、君を…」 「あり得ないっ。そんなことあり得ません」 スネイプの言葉を悲鳴のような叫びがかき消した。席を外していたマダム・ポンフリーが飛び込んできた。 「そんなことあってはならないんだ。…そんなこと、起きていない…」 掌で耳を塞ぎ、両肘で顔を覆うようにして頭を抱え突っ伏してしまったマルフォイを、マダム・ポンフリーは二人から守るように抱きしめた。 「一体なにをなさっているの。この子はけが人なのよ！？」 「マルフォイ。君の気持ちは、よく分かった。…じゃが、二度目がないともかぎらん」 ダンブルドアの言葉に、マルフォイの背中がびくりとはねた。取り繕ろいようのない怯えだった。 「もうおやめになって。これ以上興奮させてはいけません。今日はここまでになさって」 きっと睨み付け、即刻出てゆくよう告げた。 「なにか思い出したら、躊躇うことなく、相談するんだよ？いいね？」 ダンブルドアは、スネイプを伴って医務室をあとにした。 2001/12/22 UP← → |