WILD　CHILD　〜極光〜



３５



　見覚えのある姿に、三人組は足を止め、円柱の後ろに姿を隠した。
　陽当たりの悪い回廊の先に居たのは、スネイプ、クラッブ、ゴイルだった。少年二人は手振り身振りをくわえてなにかを訴えている様子で、スネイプはそれに頷いている。
「妙な取り合わせね。ロン」
「うん。マルフォイが居ないなんて」
　スネイプが立ち去ったのを見届けてから、三人は二人に声をかけた。
　クラッブは泣きそうな顔をこすり、ゴイルがその背を叩いていた。
「ねぇあなたたち、なにかあったの？」
「グレンジャー…」
　二人はハーマイオニーの姿に安堵の色を浮かべ、後ろに立つ黒髪の少年に、敵意も顕わな眼差しを向けた。
　ハーマイオニーがもう一度問うた。クラッブは縋るような目で言った。　
「…マルフォイが変なんだ」
「あいつは何時だって変だろ？」
　緊張感のないロンの鳩尾に、ハーマイオニーの肘鉄がめり込んだ。蹲ったロンに呆れた視線を向け、ポケットに手を突っ込んでゴイルが言った。
「抱え込み過ぎなんだ。グレンジャー、君と主席を争い、ポッターとグイディッチで競い、他にも朗読や合唱や…。なにもかもで一番でいようとする」
「このままじゃ死んじゃうよ」
　クラッブがしゃくり上げた。
「なに？どういうことなの？」
「体が保たない。もともと酷く弱いんだ。一年の頃はよく喘息の発作を起こしてた」
「今は？」
「毎晩遮音の呪文を使ってる。カーテンの中でちゃんと眠れているのかどうかわからない。だけど、たぶん違う。どこか病んでる」
「なんで断言できるんだ？」
　確信を持って言うゴイルにロンが問うた。
「あいつのクローゼット、薬だらけだ。コレクションだって笑ってたけど、違う。確実に減ってる。睡眠薬や頭痛止め。劇薬まがいのも混じってる。これ以上はやばい」
　その意味するところに、ロンも顔色を変えた。
「僕らがいくら言っても聞きやしない。癇癪を起こしてお終いだ。挙げ句に最近は夜も変だ」
「変？」
　言いよどむゴイルにハーマイオニーが詰め寄った。彼は言い渋った。秘密は守ると確約してようやく話した。
「夜、抜け出してるみたいなんだ。幸い誰にもばれてない。だけど危険だ。僕らじゃもうどうにもならない」
　それでスネイプに相談したの？とハーマイオニーは問うた。二人は頷いた。あんなことがあったあとだから仕方ないって。フィルチには上手くいっておくって。約束してくれたと。
「恐いよ。マルフォイがどんどん知らない人になる」
「前はなにがあってもストレートに感情に出していたから、あいつがなにに関心を持っているのか、なにに腹を立てているのかよくわかった。けど今は…駄目だ。なにもかも自分の中にため込んで、僕らにも隠してしまう。僕らすら、邪魔にする。あいつが今どこを見ているのかすらわからない。こんなこと今までなかった」
「しっかりしろよ、おまえらあいつの友達だろう？」
　ロンの言葉にゴイルが顔を顰めた。鋭いナイフで手を切ってしまったような顔だ。
「…その、つもりなんだけどね。まだ、そうみえてるか？」
「なにいってるの？あなた達は、スリザリンの３人組でしょう？」
　クラッブが耐えかねた様子で泣き出した。
「マルフォイは僕らが邪魔なんだ」
「どういう意味だ？」
「僕らを監視役だと思ってる。グレンジャーのことを告げ口したのも僕らじゃないかって、きっとそう思ってるんだ」
「マルフォイが、そういったの？」
　クラッブは頷いた。
「僕らに、親に隠し事はするなって。必要なことは知らせとけって。自分は悟られるほどへまじゃないからって。それって、そういう意味だろう…」
　以前はそうだった。親の思惑を知らず、二人はいわれるままマルフォイの日常を書いて送った。それがマルフォイの父親への密告文だと知ったのは最近のこと。だから、止めた。そのせいで、親に叱責されても、小遣いを減らされたり、差し入れを止められても、辛くなかった。それなのに…。
　しゃくり上げるクラッブを、ハーマイオニーが宥めようとした。その隣で思案顔で腕組みをしていたロンが言った。
「…それは、賛成だな」
「なにを言い出すの？ロン」
「パーシーが言ってたんだ。どこからあんな不確かな噂が流れたんだろう？って。誰かが意図的に流したのでないとしたら、逆に勘ぐったってことかなって。きっと、このことだ。君等が急に黙ってしまったから、あの親父は不審に思って調べたんだ。それでゴシップを掴んで、逆上して乗り込んできたんだ。つじつまが合うよ。だから、君等は普通に手紙を書いた方がいい。向こうが望むような事柄を書いて送った方が安心させられるんじゃないか？」
「そうね。そのほうがいいかも…。ねぇ、あなた達が手紙を止めたのはいつから？」
「三ヶ月ほどまえから」
　やっぱり。ハーマイオニーは合点がいったとばかりに頷いた。
「聞いて二人とも。私、彼なりにあなた達のこと考えて言ったんだと思う。だって、報告しなかったら、今度はあなた達が怒られるんでしょう？最近あなた達にご両親から届くフクロウ便、小さなものばかりだったような気がするの。以前はお菓子とかいっぱい送られていたのに。それって罰だったのね？マルフォイはそれがわかっているから、だからそういったのよ」
「マルフォイは僕らのこと考えてくれてるの？」
「ええ、そうよ。邪魔だなんて、誤解なのよ」
　だといいなぁ。クラッブが泣き笑った。
「だけどマルフォイが僕らに隠し事をするようになったのは変わらない。マルフォイは全部一人で背負い込むつもりだ」
　こんな悔しいことはないとばかりに、ゴイルは草を蹴った。
「…ポッター！貴様の所為だ！貴様があんなこと言うからっ！！貴様が居るからマルフォイがっ」
「僕にどうしろっていうの？ゴイル」
　冷ややかな口調だった。
「あいつは今でも僕を無視しているのに」
「無視するのは意識していることの裏返しじゃないかっ」
「だからなに？僕にあいつにすり寄って仲良くしろとでも言うの？」
「貴様！」
　ゴイルの拳が、ハリーを草むらに叩きつけた。
　ロンが駆け寄って助け起こした。割れた眼鏡を拾い上げハリーに渡した。
「ありがとう」
　何事もなかったように、ハリーは眼鏡を受け取った。割れたレンズを魔法で直し、掛け直した。
「なんで避けなかった？」
　理解できないといった顔で、ロンが問いつめた。ハリーは薄く笑った。立ち上がり、ローブに付いた草を払い落とした。
「少しは気が晴れた？」
　笑っていた。
「僕は今まで通りのほうがいい。偽善行為はあいつが一番嫌がる。君等だって判ってるはずだ」
「畜生！畜生ぉ！」
　ゴイルは跪き、どうにもならない憤りを草むらに叩きつけた。
「ハリー。あなたマルフォイに冷たすぎるわ」
「そうかな。僕は充分優しいつもりだけど？」
「僕にはそう思えないよ」
「そう？だって僕と対立すること望んでいるのは、他でもないマルフォイ自身だよ。ロン」
「どういうことだ」
「言葉通りだよ、ゴイル。マルフォイの友達は君等だろう？」
「ハリー、それは少し違うわ。私もロンも前ほど彼が嫌いではないわ。私たちも彼の友達よ」
「ああ、そういう意味でなら、きっと僕もだよ」
　ハリーは笑った。
　クラッブとクラッブにはとうてい笑顔に思えなかった。
2002/1/19　UP
今日は更新だけです。すいません。カキコありがとうございます。ホント嬉しいです。ありがとうございます。睡眠不足の弊害だそうなので、週末はひたすら寝ます。おやすみなさい。

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