WILD CHILD 〜極光〜
３７
「今朝は早いな。目覚ましいらずか？」
「たまにはね」
ルームメイトが目を覚ました時には、マルフォイはすっかり身だしなみを整えていた。寝起きの悪い彼には珍しいことだった。
マルフォイは朝からご機嫌だった。
久しぶりにゆっくり眠れた。幸せな夢を見たような気がする。なにも覚えていないけれど、胸がほっとりと暖かい。眠ることが心地よいことだったのを思い出せた。このところ毎朝だった、抜けきらない疲労感やけだるさが、どこかに置き忘れたように消えていた。
「今朝は不思議と調子がいい」
ノーバディのお陰だと思った。彼があの悪夢を追い払ってくれたのだ。
マルフォイは久しぶりに新鮮な空気を吸いたくなった。食堂で落ち合う約束をして、先に寮を出た。スリザリン寮は地下にある。快適な構造になってはいるが、陽の光は届かない。
一人で中庭にでた。朝露に濡れた木々が彼を迎えてくれた。人の気配はなく、それが彼を喜ばせた。
早朝の清々しい大気を胸一杯に吸い込んだ。冷たくて心地よい。
樹木の枝を弾くと、露の滴が朝日に輝いた。
室内になれた目には眩しすぎる。マルフォイは掌を翳した。
「！？…なにこれ？」
目に映ったものに慄然となった。
彼はおぞましいものを見るような顔つきで、自分の掌を見つめた。
掌にも手首にも、くっきりと静脈が透けて見えた。
裏返した。手の甲にも静脈が浮き出ていた。葉脈のようにたどれる静脈の蒼い筋。シャツを肘までまくり上げた。腕も同様だった。
（気持ち悪い。）
清々しかった気分は吹き飛んでいた。吐き気がする。
急に背筋が冷たくなった。
考えまいとしてきた事実が、重くのし掛かってきた。
身長が伸びない。体重が増えない。
年の始めに父から贈られた指輪がゆるくなり、関節から抜け落ちる。
（僕だけ、成長が遅れてる…。まるで止まってしまったみたいだ）
同室のクラッブやゴイルは、学年でも大柄な方だ。単純に比較しても意味がない。そう思い込もうとしていた。彼らは若木のように背が伸びてゆく。彼らだけではない。入学当初はさして違わなかったクラスメイトにも次々と抜かれた。先頃行われた健康診断でも注意を受けていた。発育不良。低血圧。偏食を治し、朝食を抜かないようにと。
（これも、その所為？）
もう一度、おそるおそる掌を見た。すぐに目を背け、握りしめた。
2002/1/21 UP
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