WILD　CHILD　〜極光〜




３９



「気持ち悪い…」
　マルフォイはベンチに腰掛け、教科書を枕に半身を横たえた。校舎の裏手は陽の恵みもなく人気がない。安心してだらけることができた。
　まだ胸焼けがする。朝食を無理矢理食べたせいだ。拷問だった。
　なんでその程度食べられないんだ？と真顔で問う二人に、なんでそんなに食べられるかが不思議だ！！とかりかり怒る。朝からそんな調子だったから、正午を迎える前にぐったり疲れ果てていた。
（当分食べ物なんて見たくない）
　昼食はパスした。食堂に行けばまた山盛り盛りつけられるかもしれない。想像して更に気分が悪くなった。
　のびている彼に、スネイプが探していたと、スリザリンの監督生が伝言を伝えた。
　マルフォイはみっともない様をみられて蒼くなった。具合が悪いのかと気遣う監督生に謝意を伝え、マルフォイはスネイプの研究室を訪ねた。


「なんですか？これ？」
　手渡されたのは一冊の分厚いノート。そのノートにマルフォイは見覚えがなかった。
「以前処方した薬の調合を書いておいた。君が現在所持している薬と薬剤もな。薬は度を越せば毒にしかならん。判るか？」
「先生！僕は…」
「使うなとはいっておらん。量と副作用を考え、弁えて使え。それから食事は抜くな。体調が狂えば薬も効かなくなる。いいな？」
「…はい。」
スネイプのいわんとしていることを察して、マルフォイは唇を噛んだ。
（薬害かもしれない。だったら、自業自得だ。）


　昼休みの図書室でノートを眺めた。
　調合より、飲み合わせの副作用など、薬害について多くのページが割かれてあった。
（よく見てるなぁ）
　マルフォイはスネイプの観察力に脱帽した。彼に習った薬の他にも、マルフォイが彼の研究室で興味を示したことのある薬剤や薬、手持ちの薬草で調合できる可能性のあるもの全てに言及されていた。
（これだけのノートをつくるのに、何日かかったのだろう？）
　スネイプ特有の、神経質なまでに整った文字。整然と並んだ筆跡に目を落とし、マルフォイは胸がきゅっと痛くなった。
　スネイプの心遣いが嬉しい。でも喜んではいけないのではないか。彼の手を煩わせるのは自分が不甲斐ないから。それを思うと手放しで喜ぶなんてできない。
　ノートの上で木洩れ日が踊る。ゆらゆらと踊る。
　　休み時間の終わりが告げられるまで、マルフォイはそれを眺めていた。
　　ゆらゆら、ゆらゆら。
　　様々な想いが交錯し、思考が停止する。
　　表情の抜け落ちた能面のような貌のまま、心はやるせなさに細っていった。　
2002/1/23　UP

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