WILD　CHILD　〜極光〜



５



「あら、いらっしゃい。おはいりなさい。起きているわよ」
　放課後の見舞い客を、マダム・ポンフリーは機嫌良く招き入れた。ゴイルとクラッブの二人だった。
　窓越しに空を見上げていたマルフォイは、カーテンに仕切られた空間に入ってきた二人を振り返り、吹き出した。
「なんて顔をしている？それではどちらが病人か分からないじゃないか」
「調子よさそうだな」
　悪態をつくマルフォイに、神妙な顔つきだった二人に安堵の色が浮かんだ。
「当たり前だ。只の風邪だぞ。騒ぐほどのものじゃない」
　マルフォイは彼らにも真実を語らなかった。彼らはボディーガードも兼ねている。自分になにかあったら、彼らの親がマルフォイ家から叱責されるのだ。人間相手ならともかく、化け物が相手ではどうにもならない。
「風邪だって、大事をとった方がいい」
「そうだよ。また発作が起きたらどうするんだ？」
「そのための３人部屋だ。問題はない」
　こともなげに言いきった。二人は顔を見合わせ、押し黙った。
　マルフォイにはひた隠しにしてきた秘密がある。尊大な態度は、それを覆い隠すためでもあった。彼のわがままとして財にものをいわせた部屋割りもそうだ。５人部屋を彼ら３人で使っている。ともすると夜中喘息の発作を起こす体の弱さを隠すためだった。
「さぁ、今日は何処まで進んだんだ？宿題は出たのか？黙りでは分からない」
　即され、二人は携えてきた教科書を開いた。授業で進んだところ。宿題のこと。勉強が得意ではない彼らなりに、一生懸命に伝えた。
　彼らが持ち込んだ教科書の中に、図書館の本を見つけ、マルフォイが問うた。
「これは？」
「レポートに使えそうな本。図書館で借りてきた」
「お前達にしては、いい本を選んだな」
　目次と索引にざっと目を通し、マルフォイは褒めた。必要な項目名が網羅されている。図書館の辞典類は貸出禁止だ。各談話室にも備え付けがあるが、やはり持ち出し禁止である。宿題に使う本は同時に利用者が殺到するからだ。貸出可能な一般書架で、コンパクトにまとめた本を見つけるのは結構大変なのだ。
「上出来だ」
　満足げに微笑むマルフォイに、二人は揃って困った顔をした。言い出しにくそうに、もじもじとしている。
「なんだ？」
「その本。ハリーが選んだんだ」
「な…に？」
　マルフォイの顔色が変わった。あのとき、耳元で囁かれたくぐもった声が、脳裏に蘇った。
「馬鹿な奴。ハリー・ポッターはお前が嫌いだ。それはお前自身がよく知っていることじゃないか」
　本が滑り落ちた。表情を凍り付かせたマルフォイに、二人はしまったとばかりに大きな体を縮こまらせた。
「僕らじゃ、どの本がいいのかわからなくて…。図書館で探していたら、奴がこれを。上級生用の本だけどマルフォイなら使えるだろうって」
「…ごめん。奴の親切なんて受けるべきじゃなかった」
「あのおせっかいが…」
　悪態とは裏腹に、起こしていた上体が揺らぐ。支えようと肩を抱いたクラッブが驚いて叫んだ。
「おい、熱っ」
「先生、呼んでくる」
「騒ぐなっ」
　制止の声は、掠れていた。
2001/12/24　UP
　

←　　→