WILD　CHILD　〜極光〜



５３




　マルフォイは、彼のいるはずの空間を凝視した。
　瞳に映るのは、松明に照らされる、古ぼけた煉瓦の壁。そう、彼に可視できる体はない。人間であるはずがないのだ。それなのに似ている。この感じ。抱き上げられたときの感覚。
（どうして似ている？）
　咄嗟に、かつて試した姿現しの呪文を唱えた。
　効果はない。
　安堵に頬が緩んだ。
　効くはずがないのだ。この呪文はが暴くのは、魔法で姿を隠しているもの。元からないものには効かない。
　でもなにかがひっかかる。怪訝さが拭えない。
　困惑する彼の脳裏に図書館でのグレンジャーの言葉が蘇った。あのとき、彼女はなんと言った？
『いろいろあるわよ。呪文に魔法薬、魔法グッズ』
（…まさか！？）
　マルフォイは、彼に腕を伸ばした。後ろに仰け反ったらしく、体勢を崩したノーバディの体があるべき位置をまさぐった。
「うわっ、危ないっ。よせマルフォイっ」
　胸元、首筋、頬、髪、被うように垂れたもの。布のような感触。掴んで確信した。被り物だ。感触を頼りに引き下ろした。
　やはりなにも見えはしない。
（なにをしてるんだ僕は？見えないからって、裸でいるわけではないもの。これまでだって、衣服の感触はしていた。これはきっと彼のマントなんだ）
　そう納得しようとして、できなかった。
　安堵の心と、疑う心がせめぎ合う。
　もう一度姿現しの呪文を唱えた。何ごとも起きないことを祈りながら。
　マルフォイは目を見張った。
　黄金の鱗粉が音もなく舞いだした。くるくると螺旋を描き、ふくらんでゆく。そこにあるなにかを包むように型取り、なにも見えなかった空間に人の形を浮かび上がらせた。その人物に抱かれているマルフォイにも光の粉がまとわりつく。
「なにこれ？どういうこと？」
　最後にひときわ明るく輝き、光は消えた。あとには銀色の古ぼけたマントを羽織った少年の姿が残されていた。黒い髪、緑の瞳、丸渕眼鏡。見覚えのありすぎるその顔！。
「ハリー・ポッター…？」
「あ〜あ。ばれちゃった」
　彼はぺろりと舌を出し、笑った。
2002/2/6　UP

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