WILD CHILD 〜極光〜７医務室のドアが開き、ひとりでに閉まった。 「本当に、ここにいるの？」 「そのはずだよ」 「あれじゃないかな？」 僅かな月光を頼りに、透明マントを被った三人組は、足を偲ばせカーテンで仕切られた一角を目指した。 「風邪かどうかなんて、わかるの？」 「さあ。でも、薬かなにか置いてあれば、そこから分かるわ」 「ごめん、巻き込んじゃって」 「気にしないで。あんな噂が立てば、誰だって気になるもの」 双子の兄が仕入れてきた噂は、伝言ゲームの果てに悪質なものに変容してしまった。兄たちは、そのことに憤慨した。誰もが、マルフォイの病状に興味をそそられた。届け出通り風邪なのか、それとも噂通りの被害にあったのか。 ベッドの上で、マルフォイは苦しそうに寝返りを打った。こんこんと小さく咳き込む。 「どう？なにかそれっぽいものある？」 「わからないわ。本ばっかりよ」 ハーマイオニーはサイドテーブルを物色し、証拠になるようなものを探した。 咳き込み続けるマルフォイを見下ろしハリーが呟いた。 「風邪っていうより、喘息っぽいけど？」 「そうだね。妹も小さいときこんな発作を起こしていたよ」とロンが云った。 捜し物をする三人の耳に、近づく足音が突き刺さった。彼らは息を呑み込んで身を寄せ合い、マントを被り直して、カーテンと壁の間に身を竦ませた。 カーテンを開いてはいってきたのは、マダム・ポンフリーだった。 彼女は小さく溜息をつき、咳き込むマルフォイの背をさすった。 「苦しいの？さ、これを飲んで。楽になるわ」 マルフォイを助け起こし、口元に薬湯をあてがった。 「可哀想に」 彼女はマルフォイの背中を抱いて呟いた。同情して、もらい泣きしているようにも見えた。 （どういうことだろう？） マントの中で、三人は顔を見合わせた。 女性特有の甘やかな薫り。マルフォイはうっすらと瞼を開いた。 （誰かが、泣いてる。甘い優しい香がする。…母上？） 「…ごめんなさい。母上。僕、父上の期待に応えられなくて。ごめんなさい。泣かないで。母上。僕もっともっと勉強してきっと見返してやるから。きっと一番になるから。だからお願い…」 譫言だった。マダム・ポンフリーを母親と間違えたのだ。切ない哀願にマダム・ポンフリーは耐えきれず涙をこぼした。 三人は動けなかった。見てはいけないものを見てしまった。後悔で心がいっぱいになった。 2001/12/26 UP← → |